初音ミクさんを忘れないでください

初音ミクさんを忘れないでください

目次

「マイナーコードでサビがなくイントロはやたら長いくせにアウトロは唐突に終わってしまうような曲ばかりの、フルアルバムよりもミニアルバムが好きです。」だけでわたしのすべてが伝わってくれたらいいのに、と思う。


でもこれだけじゃ何もわからないから、血液型占いは信じますか? とかメロンソーダとレモンスカッシュならどちらが夏ですか? という質問をしたりされたりしないといけない。


【普段はなにをしていますか?】
これはかなり難易度の高い平凡で退屈な質問だ。 話のきっかけとしても最悪だと思う。「はい平日は大抵の時間を服のしわを伸ばすことに使い、休日はよくお米を研いでいます。毎日は音楽が流れていることが多いです。」と答えるのはあまりにもいじわるなので仕方なく「 平日は普通に仕事をして、休みの日は映画とか観てますね。それか音楽聞いてます、はは」みたいなことを言うしかなくなってしまう。こんなの酷いよ。やはり世界は残酷であり、教育はアイデンティティを生まない。


自己紹介が、苦手すぎる。
だいたい、自分がどういう人間であるのかを真に理解している人なんてそうそういないし( もしわたしだったら理解できた瞬間に悔いなく自殺すると思う)もし仮に自分というものを理解できた人がいたとしても、それをわざわざ自分から開示していくのはもったいないように思う。Twitterのbiographyに長々と好きなものや年齢、学歴病歴主義思想等を書き連ねている人はその箇条書き以上に自分のことを深く知ってもらいたいとは思わないのだろうか、といつも不思議に感じる。文庫本の裏に書かれたあらすじだけをみて読んだ気になり満足しちゃったから棚に戻す、みたいな対応をとられることが恐ろしくてわたしにはとてもできない。


「マイナーコードでサビがなくイントロはやたら長いくせにアウトロは唐突に終わってしまうような曲ばかりの、フルアルバムよりもミニアルバムが好きです。」が自己紹介としてなにも成り立っていないということはじゅうぶん分かっている。 しかし、文庫本のあらすじにはなれなくてもせめて表紙くらいの役割は果たしてくれないだろうか、と祈るしかない。上の一文でわたしのすべてがわかる人は世界にひとりもいないけれど、この暗号めいた無線を傍受できるような「一部の人」たちのアンテナを微かに震わせて、目次だけでもページを開いてもらえたらきっと救われるだろうと思う。